男性更年期について

男性更年期のイメージ画像

更年期障害というと、女性の病気だとお考えの方も多いと思いますが、男性にも更年期障害が起こることがあります。男性ホルモン(主にテストステロン)が加齢とともに減少することで、心と体にさまざまな不調が現れる状態を「男性更年期障害」といいます。性腺機能が低下するため、「LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)」とも呼ばれます。テストステロンの低値は性機能低下だけでなく、メタボリック症候群、ロコモティブシンドローム、糖尿病、心血管疾患、呼吸器疾患などのリスクを高め、寿命にも関係することが報告されています。

女性の更年期とは違い、発症年齢に明確な区切りはなく、40代後半から徐々に始まり、50〜70代で症状が強くなる方もいます。
治療では男性ホルモン(テストステロン)の補充などを行います。
中年期以降でなんとなく体調が優れないなと感じる方は、テストステロン治療認定医、代謝内分泌科専門医の院長まで、お気軽にご相談ください。

女性更年期障害との違い

男性の更年期障害は、女性の更年期障害といくつかの点で違いがあります。
例えば、発汗やほてり、睡眠障害といった症状は共通していますが、男性の場合はこれらのつらい症状が比較的長く続く傾向があります。女性の更年期障害は、主に閉経前後の数年間(40代後半前後)に集中し、その時期を過ぎるとある程度落ち着くことが多いです。一方で、男性の場合は60歳代や70歳代になっても疲労感などの更年期症状が続くケースがよく見られます。
これは性ホルモンの減少スピードが男女で異なるためで、男性ホルモンは女性に比べてゆっくりと減少するため、症状が長引くと考えられています。

比較項目 男性 女性
ホルモン テストステロン エストロゲン
低下の
速度
緩やか(年1〜2%ずつ) 急激(閉経とともに急減)
明確な
転機
なし(個人差が大きい) 閉経という明確な時期がある
低下の
引き金
加齢+生活習慣・ストレスなど 卵巣機能の停止
症状発現
のしくみ
ホルモン低下+心理社会的要因が複雑に絡む ホルモン低下が直接症状に結びつく

原因

  • 加齢に伴うテストステロン(男性ホルモン)低下
  • ストレス、不規則な生活、睡眠不足
  • 慢性疾患(糖尿病、高血圧、肥満)
  • 喫煙・飲酒習慣
  • 心理的要因(うつ、不安など)

など

症状

症状は性機能に関するものを中心に多様です。以下に主な症状をまとめましたので、ご参照ください。

体の不調
ほてりがある、疲れやすい、筋力低下
心の不調
イライラ、不安、集中力低下、うつ症状
性に関する悩み
勃起力の低下、朝の勃起減少、性欲の減退

また、男性ホルモンの低下により代謝が低下し、メタボリックシンドロームや高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病の原因となることもあります。

チェックリスト

チェックリストの質問票には、代表的なものとしてAMS(Aging Male Scale)とADAM(Androgen Deficiency in Aging Males)質問票がありますが、ここでは比較的簡便なADAM質問票を使用いたします。

ADAM質問票 はい いいえ
1. 性欲が減退したと感じますか?
2. 活力が減ったと感じますか?
3. 筋力や持久力が落ちたと感じますか?
4. 身長が縮んだと感じますか?
5. 「生きがい」を感じにくくなりましたか?
6. イライラしやすくなりましたか?
7. 勃起力が落ちましたか?
8. 運動後の回復が遅くなったと感じますか?
9. 朝立ちがなくなったと感じますか?
10. 仕事の集中力が低下しましたか?

上記の1または7が「はい」、かつそれ以外の8問中3問が「はい」の場合、LOH症候群が疑われます。AMS質問票も試してみたい方は、こちらをご参照ください。

来院後の検査~診察・治療~次回受診の流れ

  1. 初診時の評価(症状の確認) 来院後問診票(AMS質問票)をお渡ししますので、待合室でご記入ください。
  2. 他疾患の除外 元気が出ない原因として、ほかの疾患(甲状腺機能低下症、うつ病、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群など)が隠れている場合もありますので、一度診察をさせていただき、症状に応じて必要な検査を行います。
  3. 血中テストステロン測定 可能であれば、午前中に血液検査をします。(テストステロン値は朝が最も高く、夜にかけて低下するためです。)
    検査では、総テストステロン(TT)と遊離テストステロン(FT)を測定します。2024年に発行された新しいガイドライン上では、まず総テストステロンを測定し、結果が正常であれば、後日改めて遊離テストステロンを測定することが推奨されています。保険診療の制限により、これらを同時に測定することはできません。当クリニックでは、患者様とご相談のうえ、検査項目を決定いたします。
    ※外注検査となりますので、結果説明までに1週間ほど要します。
  4. テストステロン値の評価 男性ホルモン補充療法の適応を判断するために、テストステロン値を評価します。一般的に、遊離テストステロン(FT)が7.5 pg/mL未満、または総テストステロン(TT)が250 ng/dL未満の場合は、LOH症候群の疑いが強いと考えられます。
    2024年の新しいガイドラインでの重要な変更点は、「ホルモン値だけでなく、患者様の症状もあわせて総合的に判断し、治療開始を検討する」点です。そのため、テストステロン値が正常範囲内であっても、症状が認められる場合には、男性ホルモン補充療法の適応となることがあります。
  5. PSA値の確認 治療開始前に、もう一度採血をします。前立腺がんの患者様に男性ホルモンを補充すると、がんの増殖を助長してしまう可能性があるため、前立腺がんを事前に除外するなど慎重な対応が求められます。
    • PSA 2.0~4.0 ng/mL:慎重に治療を検討します。
    • PSA 4.0 ng/mL以上:前立腺がんの精密検査が必要です(MRIや前立腺生検など)。
  6. 治療開始(TRT(男性ホルモン補充療法)) 注射製剤(エナルモン®)または、陰嚢に塗布する経皮吸収剤(アンドロジェル®)にて治療を開始します。効果や副作用については、定期的にモニタリングを行います。
  7. 経過観察と効果判定(3カ月ごと) 症状の改善状況を確認し、血液検査(テストステロン、PSA、Hb)を行います。あわせて、副作用の有無についてもチェックします。

症状が軽い場合は、それぞれの症状を改善するための薬剤を用います。補中益気湯などの漢方薬を併用することもあります。
症状が重い場合には、男性ホルモン補充療法を行います。

テストステロン補充療法(健康保険適応)

投与間隔
患者様の状態にもよりますが、2~4週ごとにお尻に筋肉注射を行います。治療効果が出てきて体調が良くなってきた場合には、徐々に注射間隔を伸ばしていきます。
効果
個人差はありますが、投与開始から3~4か月後には症状の改善を自覚できます。1年後には回復する方が多いので、注射を終了できるように相談しながら治療を進めましょう。

男性ホルモン軟膏 グローミン(自費診療)

グローミンは、天然型の男性ホルモンであるテストステロンを配合したクリームタイプの塗り薬です。注射製剤のように強引にテストステロンを高レベルに維持するのではなく、陰嚢の皮膚に塗るだけで男性ホルモンの補充ができる医薬品です。塗り薬のため、毎日少しずつ使用することで、適度に血中濃度中の男性ホルモンを補充することができます。特に、LOH症候群の診断基準を満たすほどの著明な低下はないものの、ストレスの多いビジネスパーソンで、年齢の平均値と比べて男性ホルモンがやや低下している方などには、緩やかに補充できる方法としておすすめです。

男性のテストステロン分泌には日内変動があり、通常は夜明け前から早朝にかけて分泌が高まり、午前中にピークを迎えます。そのため、起床時に塗布することで、健常な日内リズムに沿ったテストステロンの補充が可能です。グローミンは少量投与が可能で、安全性が高く、塗る量や頻度を調整しやすいのが特徴です。そのため、幅広い症状や目的に柔軟に対応できるという利点があります。さらに、注射製剤と併用することで効果を高めるという報告もあります。なお、この薬剤は保険適用外のため、自費診療での取り扱いとなります。

1本(約2~4週間分) 3,800円(税込)

男性ホルモン軟膏 1UPフォーミュラ(自費診療)

グローミンと同様に、男性ホルモンであるテストステロンを配合したクリームタイプの塗り薬です。グローミンとの大きな違いは、テストステロンの含有濃度です。グローミンが1%であるのに対し、1UPフォーミュラは5%と、その5倍の濃度になります。グローミンでは効果が乏しいと感じる方に有用で、諸外国で使用される男性ホルモン軟膏製剤と同濃度となっています。

一般的な補充療法である注射製剤は、投与間隔に応じてテストステロン血中濃度に高低差が生じてしまい、非生理的な補充にならざるを得ません。そのため、注射後数週間で薬の効果が切れてくるのを実感し、次の投与日までの日常生活に不便を感じる方もいます。

一方で、1UPフォーミュラは塗り薬なので、毎日塗ることで適度な血中濃度を保ちつつ、日内変動を考慮した性ホルモンを維持できるのが特徴です。1本で約2か月間使用でき、頻回の来院も不要となっています。そのため、多忙でなかなか診療時間内に受診が難しい方や、注射そのものが苦手な方には特に有用です。また、長期旅行時や災害時にも常備しておくと安心です。

1UPフォーミュラは、メンズヘルス医学会が認定するテストステロン治療認定医のみ処方が許可されており、当クリニックでは認定医である院長が対応いたします。処方にあたっては、処方箋を学会指定の薬局へご連絡し、ご自宅へ郵送でお届けする形となっております。なお、この薬剤は保険診療の対象外となり、自費診療での取り扱いとなります。

1本(25g:約8週間分) 12,100円(税込)

男性更年期障害(LOH症候群)に関するよくあるご質問(ご家族様向け~)

最近夫がよくイライラしたり元気がなかったりするのですが、更年期障害でしょうか?
中年以降の男性が、急に元気をなくしたり怒りっぽくなったり、性格が変わったように感じられたりする場合、LOH症候群の可能性があります。男性ホルモンの低下によって、精神的な不調や気力の低下が現れることがあります。気になる場合は、一度専門医の診察を受けてみることをおすすめします。
自分から病院に行きたがらないのですが、どうすればよいですか?
男性は心身の不調を「年のせい」や「気のせい」と考えて、我慢してしまう傾向があります。「最近疲れてるけど、大丈夫?」「一度検査してもらおうよ」など、優しく声をかけることが大切です。当クリニックでは、プライバシーに配慮した診療体制を整えておりますので、安心してご相談ください。
本人は「更年期障害なんて自分には関係ない」と言っていますが…
そう感じる方は多くいらっしゃいます。しかし、実際に血液検査でテストステロンが低下しているケースも少なくありません。最近では、気づかれにくい「隠れた病気」としても注目されています。放っておくと、生活習慣病やうつ症状のリスクも高まりますので、無理のない範囲で受診を勧めていただけると安心です。
家族としてできるサポートはありますか?
LOH症候群の症状は、ストレスや生活環境にも大きく関係しています。下記のようなご家族のサポートがとても大切です。そして何よりも、「理解しようとする姿勢」そのものが、患者様の大きな支えになります。
  • 規則正しい生活を一緒に心がける
  • 無理に励まさず、話を聞いてあげる
  • 食事や運動の習慣を一緒に見直す
  • 医師に相談してみるよう、やさしく勧める
受診するときは家族も付き添ってよいですか?
はい、もちろん可能です。初診時には、ご家族からの情報も診断の大切なヒントになります。お気軽にご一緒にお越しください。