性感染症とは

性感染症(STD)とは、性的接触を通じて皮膚や粘膜から細菌やウイルスなどの病原体に感染し発症する病気を指します。
これは、性器同士の接触だけでなく、オーラルセックスや肛門性交を介しても感染する可能性があります。性感染症の中には、ほとんど症状が現れないものもあり、知らず知らずのうちに感染が広がってしまうことがあります。また、症状がデリケートゾーンに現れるため、恥ずかしさから受診をためらう方も少なくありません。しかし、我慢していても自然に治癒することはなく、むしろ症状が悪化することが多いです。異常を感じた際には、早めの受診をお勧めします。
当クリニックでは、基本的に男性の性感染症を主に診察しておりますが、パートナーの女性の方もお気軽にご相談ください。必要に応じて、婦人科にも相談しながら診察させていただきます。また、当クリニックではプライバシー保護のため個室で診察を行い、スタッフ一同、守秘義務の厳守を徹底しております。
尿道炎
尿道炎(にょうどうえん)とは、尿道に炎症が生じる病気で、細菌感染が主な原因です。性感染症によるものが多いですが、性行為以外にも排尿障害や免疫力の低下、おむつ使用中の排尿などが原因となることもあります。
主な症状は「おしっこする時に痛い、うみが出る」などの排尿時痛です。原因となる菌としては、主にクラミジア、淋菌が多いですが、大腸菌(近年増えているマイコプラズマ・ジェニタリウムや膀胱炎の原因として多い)なども症状を引き起します。
尿道炎かもしれないと感じた方は、下記のチェックリストをご参照いただき、あてはまる症状がある方は当クリニックへご相談ください。
症状とチェックリスト
- 排尿時に痛みや灼熱感がある
- 尿道からの分泌物(膿や透明な液体)がみられる
- 尿道にかゆみや不快感がある
- おりものの増加、不正出血(女性)
- パートナーが性感染症と診断された
- のどの痛みや違和感がある(オーラルセックス後)
など
淋菌とクラミジア尿道炎の違い・治療方針
尿道炎 (淋菌以外) |
淋菌感染症 (淋病) |
|
---|---|---|
主な 原因 |
クラミジア(50%ほど)、マイコプラズマ、大腸菌など | 淋菌 |
症状 | 排尿時の痛み、尿道分泌物、かゆみ | 排尿時の激しい痛み、黄緑色の膿状分泌物 |
潜伏 期間 |
1〜3週間 | 2〜7日 |
治療法 | 抗生物質内服(ジスロマック®1000mg1回など) | 抗生物質点滴(ロセフィン®1g) |
合併症 | 精巣上体炎、不妊症、子宮頸管炎など | 精巣上体炎、尿道狭窄、不妊症、子宮頸管炎など |
- 淋菌性尿道炎では、約20〜30%の割合でクラミジア感染を合併するとされています。
- 淋菌性尿道炎は、症状が比較的急性に現れることが多く、性交後に早期に症状を自覚するケースもあります。
来院後の検査~診察と治療~次回受診の流れ
- 問診を記載いただきます(いつ頃から?痛みはあるか?最近の性交やパートナーの症状など)。
- 尿検査(尿定性、尿沈渣)を行います。まず、尿検査をして尿道炎が疑われるかどうかを確認します。尿道炎の可能性がある場合には、どのような菌が原因かを詳しく調べます。中には、淋菌やクラミジアの両方に感染していることもあります。そこで、淋菌やクラミジアかどうかを調べる「PCR検査」や、大腸菌などの一般細菌を調べる「尿培養検査」などを実施します。PCR検査は尿を提出する方法で行いますので、痛みを伴う検査はありません。
- まれですが、発熱がある場合は、炎症反応などを確認するため採血をさせていただきます。前立腺疾患が疑われる場合はPSA検査を追加します。
- 上表のように、原因と考えられる菌を予測し、抗生剤による治療を開始します。治療開始後は、1週間後に再受診いただき、尿検査を提出いただきます。その際、症状の改善状況を確認し、PCR検査や尿培養検査の結果についてもご説明いたします。さらに、治療開始後2〜3週間の時点で再度PCR検査を行い、感染症が陰性化しているかどうかを確認し、治療の継続について判断します。
- ②尿培養検査、尿PCR検査、③血液検査については外注検査となりますので、結果説明までに1週間ほど要します。
尿道炎に関するよくあるご質問
- 尿道炎は自然に治りますか?
- 自然治癒することもありますが、放置していると感染が広がり、お腹の中で合併症を引き起こす可能性があります。早期の診断と治療が重要です。
- パートナーがクラミジアに感染したので検査をしてください、と言われましたが、症状は全くありません。受診した方がいいですか?
- はい、クラミジア感染症では、症状が出ない無症候性感染症が増加しており、現在感染者のうち約半分の方は症状が出ないとされています。パートナーの方が感染治療を終えても、あなたが感染していれば再感染する可能性があります。そのため、一度PCR検査を受けることをお勧めします。
- 自分が感染した場合、パートナーも治療が必要ですか?
- はい、パートナーの方にも同時に検査・治療を受けていただくことで、再感染防止につながります。
- 治療中に性行為は可能ですか?
- 治療開始後、尿検査で感染が陰性であることを確認できるまでは、性行為を控えることが推奨されています。
- 再発することはありますか?
- 再感染や治療不十分により、感染者の15~30%は再感染するとされています。
治療後は不特定多数の方との性交は避け、避妊具の使用を心がけましょう。また、尿道炎感染時はパートナーと同時に治療するようにしましょう。
梅毒
梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌に感染することによって起こる性感染症です。近年は若年層に限らず、中高年や高齢者の間でも感染が広がっています。2024年の感染者数は約14,000人を超え、前年よりさらに増加傾向にあり、大阪などの都市部で特にその傾向がみられます。梅毒は早期に発見して治療すれば完治が可能ですが、放置すると重い合併症を引き起こすこともあります。
主な感染経路は、感染者との粘膜の接触を伴う性行為であり、アナルセックスやオーラルセックスも含まれます。ほかには、妊娠中の母親から赤ちゃんに感染する「先天梅毒」もあります。感染後10〜90日間ほど体内に潜伏したのち、第1期では接触部位に腫れやしこり(腫瘤)などの症状が現れます。これらの症状は治療を行わなくても数週間で一度消失することがありますが、病気自体が治癒したわけではありません。そのまま放置すると、約3か月後から第2期の症状が現れ、発疹やリンパ節の腫れなど全身に症状が広がることがあります。さらに進行した場合(晩期梅毒)には、さまざまな臓器にゴムのようなしこり(ゴム腫)が生じたり、神経障害や循環器系の障害を引き起こしたりすることもあり、重篤な経過をたどることもあります。
梅毒は症状が多彩で、一時的に症状が出たり消えたりするため診断が難しい場合もあります。そのため「模倣の達人」とも呼ばれています。下記に梅毒のステージによる症状をまとめます。
ステージ | 期間の目安 | 主な症状 | 見逃しやすい ポイント |
---|---|---|---|
第1期 | 感染から 3週間前後 |
性器や口などにしこり・潰瘍(痛みなし) | 「ただのできものかな」と 放っておきやすい時期 |
第2期 | 感染後3か月 〜半年 |
脱毛、全身に赤いぶつぶつ(ばら疹)、 発熱、リンパ節の腫れ (数か月おきに出たり消えたりする) |
風邪やアレルギーなどと 勘違いしやすい |
第3期 | 感染後 10年以上後 |
心臓・脳・神経に障害、 認知症のような症状、歩行障害 |
最近物忘れがひどくなったなど、 ご家族や周囲の方が認知症を 疑われて発見されるケース |
症状とチェックリスト
早期発見・早期治療が重要ですので、下記のような症状があり不安を感じた場合には、一度ご相談ください。
- 性器に痛みのないしこりがある(頻度最多)
- 手のひらや足の裏に赤い発疹がある
- 口内炎のような潰瘍が長く続く
- 微熱やだるさが続く
- 性的接触のあとから体調の不安を感じる
など
診断
診断は血液検査(RPRやTPHA)で行います。診断には1週間ほどお時間をいただき、陽性であれば治療を開始します。
日本ではHIV感染(エイズ)との混合感染が多く報告されているため、梅毒陽性の場合は相談のうえ、HIVの採血検査も実施します。また、梅毒感染の患者様の約20%に、ほかの性感染症の合併が認められることも報告されているため、該当する症状があれば淋菌・クラミジアなどの検査も行います。
治療
治療は内服薬または注射で行います。ステージにより治療期間は異なり、進行するほど治療期間が長くなります。早期発見・早期治療が大切ですので、「恥ずかしいから放っておこう」と思わずお気軽にご相談ください。スタッフ一同、守秘義務を厳守しておりますのでご安心ください。
ステージ | 内服薬 (ペニシリンなど) |
注射 (ビシリン®G) |
---|---|---|
1期 | 2~4週間 | 2.4百万単位を1回筋注 |
2期 | 4~8週間 | 2.4百万単位を1回筋注 |
3期 | 8~12週間 | 2.4百万単位を1週間おきに3回筋注 |
- 注射部位は、主に臀部(お尻)の大殿筋です。
- 注射(ビシリン®G)は現在準備中です。
治療後の経過観察と注意点
1. 性行為の中止
治療が終了し、医師から許可が出るまで性行為は避けましょう。また、治療後もコンドームを付けるようにしましょう。
2. パートナーの検査・治療の重要性
毒はパートナー間での再感染のリスクが高いため、パートナーも必ず検査・治療を受けることが重要です。
3. フォローアップ検査
治療効果を確認するために、数か月ごとに血液検査(RPRやTPHAなど)を行います。
梅毒に関するよくあるご質問
- 梅毒は治りますか?
- 早期に発見すれば、注射や内服薬による治療で完治が可能です。ただし、自己判断で治療を中断すると、再発や症状の悪化を招く恐れがあります。
- パートナーも治療が必要ですか?
- はい、パートナーの方も必ず検査・治療が必要です。片方だけが治療を行った場合、再感染する可能性があります。
- 再感染しますか?
- はい、一度治ったとしても再感染する可能性があります。免疫がつくわけではないので、再発予防や定期的な検査が重要です。
- 無症状でも感染していることはありますか?
- あります。特に潜伏期は症状がないことが多いため、自覚症状がなくても感染している場合があります。検査を受けないと気づかないケースも少なくありません。
尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマは、ヒトパピローマウイルスの感染によって引き起こされる性感染症です。なかでも6型と11型が主な原因となります。性行為によってこのウイルスに感染すると、陰部や肛門周囲などにイボのような病変が現れます。ひどい場合は、カリフラワーのように増殖する症例も多く診察してきました。20代の男女に多く見られる性感染症の一種ですが、ときにはがん化するケースもありますので注意が必要です。治療は外科療法と薬物療法の2種類があります。当クリニックでは、局所麻酔による電気メス治療、もしくはイミキモドクリームの外用の治療を行っています。また、手術後にクリームを併用することで、再発率を低下が期待できます。
尖圭コンジローマに関するよくあるご質問
- 治ったらもう感染しないの?
- 再感染や再発の可能性があります。ウイルスが皮膚の深い部分に潜んでいることがあり、治療後に再び症状が現れることがあります。可能な範囲で、治療後も定期的に受診するようにしましょう。
再発率の目安(参考値)
治療後3か月以内に再発するケース…20〜30%前後
1年以内に再発する可能性…30〜50%程度
- パートナーにうつりますか?
- うつる可能性があります。なお、感染していても症状がないこともあります。
- ワクチンで予防できますか?
- HPVワクチンによる予防が可能です。男女ともに接種が推奨されています。
- 尖圭コンジローマはがんになりますか?
- 通常はがんの原因となるHPVとは異なる低リスク型によるものですが、まれに高リスク型のHPVと同時に感染していることもあります。
性器ヘルペス(ヘルペスウイルス性感染症)
単純ヘルペスウイルス(HSV)1型または2型の感染によって起こる性感染症です。主に性行為や皮膚の接触を通じて感染し、年齢に関係なく発症します。感染すると、性器やその周囲に、ぴりぴりとした痛みを伴う小さな水ぶくれやただれが現れます。初感染の場合、症状が重く、発熱や排尿痛を伴うこともあります。再発時は症状が軽い傾向にありますが、疲労やストレスなどをきっかけに繰り返すことがあります。
診断は視診やPCR検査、血液検査などで行います。治療では、抗ウイルス薬の内服や軟膏により、症状を軽くし、再発を予防します。ただし、ウイルス自体を完全に消すことはできないため、再発予防のためには体調管理や予兆に注意することが大切です。免疫力を保つ生活習慣やストレスの軽減、早めの治療開始を心がけましょう。また、感染していないパートナーにうつさないためにも、症状があるときは性行為を控えることも重要です。
早期の対応と継続的なケアが再発防止につながりますので、症状が出た場合は恥ずかしがらずに受診してください。